飢餓状態に陥った細胞が自らのタンパク質を食べて栄養源にする自食作用「オートファジー」の研究で、東京工業大学の大隅良典栄誉教授が2016年度のノーベル医学・生理学賞を受賞されました。
自然科学分野において日本人が3年連続受賞という快挙は、とても喜ばしいニュースです。
ノーベル医学・生理学賞受賞と言えば、2012年の京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授の受賞で、iPS細胞(色々な臓器になることが出来る人工的に作られた未熟な細胞)という専門用語が広く知れ渡ることとなり、再生医療という研究分野が注目を浴びたのはまだ我々の記憶に新しいところです。歯科においても、再生医療について話題に上ることが最近多くなってきました。
と言いますのも、歯の神経「歯髄」の中に存在する『幹細胞』が、骨や軟骨や脂肪を作り出すのに大変有用であることがわかってきたからです。
『幹細胞』とは様々な臓器になる(分化する)前の子供の(未分化な)細胞です。
『 歯の幹細胞』
この幹細胞は、親知らずや矯正治療のために抜歯された歯、抜いた乳歯の中にも、存在することが分かってきました。通常、抜去歯は廃棄されますが、この歯から幹細胞を抽出できれば、仕方なく抜いてしまった歯が貴重な幹細胞の供給源になる可能性があります。
歯の幹細胞の優れている点としては、手軽に採取できること、増殖能力が高いこと、歯の中にあるので遺伝子が傷つきにくく癌になりにくいこと、良質なiPS細胞を作れることが挙げられます。
そこで、将来再生医療が現実のものになったときのために、歯の幹細胞を保管しておこうという目的で歯髄細胞バンク(www.acte-group.com)が作られました。
歯髄細胞バンク
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再生医療のキーになる幹細胞は加齢とともに激減してしまいます。そこで、乳歯や親知らずに存在する幹細胞を含むできるだけ若い歯髄細胞を大切に保管しておき、将来再生医療に備えることが歯髄細胞バンクの目的です。
人工材料や医薬品を使う治療と比べ、ご自身の細胞を使う再生医療は、安全性も高く有効な先端医療として世界的に技術開発が進んでいて、アメリカ、韓国、インド、台湾など他国でも歯髄細胞バンクが普及しています。
日本でも歯髄細胞バンク(http://acute-group.com/)には、すでに1,000人近い人の歯が保管されているそうです。ただ、それなりにコストもかかります。こちらのバンクの場合、登録、培養、10年保管でおおよそ30万円。11年目以降はさらに10年保管で12,000円となっています。
現時点では脊髄損傷などの神経疾患、心筋梗塞などの心臓疾患、歯周病や虫歯などの歯科疾患などの領域で研究が進められています。良質なiPS細胞を作ることができるので、将来的には全身への利用が期待されています。
お子様の将来への保険としての利用も増えてきているようです。
歯や顎のみならず、全身の病気の治療に役立つかもしれない歯髄細胞の保管にお金をかけることについて、みなさんどうお考えになりますか?
昔は乳歯が抜けたら屋根の上や床下に投げたものですが、これからは抜けた乳歯を保管するという新たな選択肢が増えました。
将来への健康への投資として考えてみてはいかがでしょうか?
歯科衛生士 倉田孝子
2016年10月7日 カテゴリ:未分類