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上顎洞挙上手術とは
~サイナスリフトの有効性~

皆さま、こんにちは。
猛暑の厳しい日々が続く8月になりましたが、お元気でお過ごしでしょうか。
連日40℃に迫る暑さで疲れがたまり、熱中症や熱ストレスのリスクが高まっています。
適切な栄養の摂取と、こまめな水分補給、適度な休息を心掛け、お身体の体調管理に留意しながらお過ごしください。

歯を失うことでタンパク質の摂取量が減少することが報告されています(※1)。
虫歯や歯周病で歯を失った場合に、インプラント治療が有効であることは、近年では広く知られるようになってきています。
しかし、実際には歯を失った後の不十分な骨量が足りず、インプラント治療をあきらめざる得ない場合も少なくありません。
今回は、上あごの骨が薄い患者様のインプラント治療を可能にとする「サイナスリフト術」という治療技術についてお話しいたします。

インプラント治療は、チタンやジルコニアでできているネジ状の棒(「インプラント体」といいます)を顎の骨に埋め、この上部に人工の歯冠(「上部構造」)を取り付け失った歯を回復させる治療方法です。
他の歯を傷つけることなく、自然な形の歯を再現できる等のメリットがあります。

しかし、誰もが選択できる方法ではありません、骨の中にインプラントを埋入するためには、骨の十分な厚みや幅が必要になってきます。

歯を失った部分の骨は痩せて薄く細くなるため、インプラントを支える十分な骨の量を確保できなくなる場合があります。
特に上顎臼歯部(上あごの奥歯)では、骨の上には「上顎洞」と呼ばれる空洞(副鼻腔)があり、骨の厚みが薄くなる傾向が強く、通常のインプラント治療ができないケースが多くあります。
こうした場合に有効なのが、上顎洞底の骨の厚みを増加させる「サイナスリフト術」です。

サイナスリフトの目的

サイナスリフト術の目的は、インプラント体を埋入するため骨の厚みを確保することです。
上顎洞は空洞の外側を一層上顎洞粘膜(シュナイダー膜)で囲まれています。
サイナスリフトでその上顎洞粘膜を持ち上げて作ったスペースに人工骨を填入し骨の高さを増やし、インプラント体をしっかりと埋入できる骨の足場を築きます。

サイナスリフトの術式

この人工骨を填入する方法には、
➊ラテラルアプローチ
➋クレスタルアプローチ
と呼ばれる主に2つの方法があります。

この方法では手術による侵襲が大きくなってしまいますが、より多くの骨を作ることができます。
ラテラルアプローチは、以下のような場合に適しています。

・上顎洞の正面または後方からのアプローチが困難な場合。
・上顎洞の底部の骨量不足が比較的少ない場合に、骨を追加するための十分な領域がある場合。
・上顎洞の位置や解剖学的条件により、他のアプローチ方法が制約される場合。

この方法では、手術による侵襲がラテラルアプローチに比べ小さくすみますが、骨を多くつくることはできません。
クレスタルアプローチは以下のような場合に適しています。

・上顎洞の正面や後方からのアプローチが困難な場合。
・上顎洞の底部の骨量不足が比較的少ない場合に、骨を追加するための領域が制約されている場合。
・サイナスリフト手術の際に、骨増量を行いながらインプラントの挿入を同時に行いたい場合。

サイナスリフト術は上顎洞底粘膜を挙上するため、術後一過性に上顎洞炎の症状を起こすことがよくあります。
また、鼻閉や鼻出血の症状が出やすいので鼻をかむ等の上顎洞に圧力のかかる行為を行うと上顎洞底粘膜が破れる可能性があるので注意が必要です。

サイナスリフト術の効果

【1.骨の増加】
サイナスリフト手術により、上顎洞の底部に骨を追加することで、インプラント挿入に必要な骨の量を確保することができます。
骨量不足の場合、インプラントが適切に固定されず、成功率が低下する可能性があります。
サイナスリフトによって骨量を増加させることで、インプラントの長期的な成功率を向上させることができます。

【2.インプラントの安定性】
骨とインプラントがしっかりと結合(オッセオインテグレーション)することにより、咬合力や咀嚼力を支えることができます。
サイナスリフトによって骨量が増加することで、術後のインプラントの安定性を向上させることが可能となります。

【3.美容的な改善】
上顎の骨量が不足している場合には、歯茎の形が不均一になることがあります。
サイナスリフトによって骨量を増加させることで、歯茎の形態を回復することが可能となり、インプラントや補綴物の装着により、自然な歯の形状を取り戻すことができます。

【4.インプラントの適用範囲の拡大】
サイナスリフト手術によって骨量が増加することで、インプラントの適用範囲が拡大します。
骨不足が原因でインプラントが不可能とされていた患者さまに対して、サイナスリフトを行うことでインプラント治療の選択肢が広がります。

静脈鎮静法(セデーション)を併用すれば、リラックスして手術を受けることができます。

鎮静状態で手術を受けるため、不快感や痛みを最小限に抑えながら手術を受けることができます。
サイナスリフト手術は、口の奥の上顎洞(副鼻腔)の領域にアクセスする必要があり、時には一定の痛みや不快な感覚・拘束感を伴う事があります。
この様な不快感を予防し、手術時の不安を取り除く為に当院では、静脈鎮静法(セデーション)という点滴による麻酔を併用した手術を行っています。

麻酔専門医の管理下で鎮静剤・鎮痛剤を点滴投与することで、術中・術後に手術中の記憶が残ることはありませんので、安心して施術を受けていただけます。

手術後の注意点

・手術後は一時的に出血や腫れが起こることがあります。
・処方された鎮痛剤や抗生物質を指示通りに服用してください。
・手術部位に直接触れないように注意して歯磨きを行い、処方された口腔洗浄液でうがいをすることが推奨されます。
・傷口を刺激しないような注意をお願いいたします。
・手術後数日は、お食事は刺激の少ないものや柔らかいものをお摂りいただき、アルコールは控えてください。

サイナスリフト術は、今まで不可能だった部位へのインプラント埋入を可能とできるとても有用な治療方法です。
骨がないからインプラントをあきらめていた方、この治療に興味を持たれた方はご相談いただければと思います。

歯科医師 清原 秀一

参考文献
(※1)Iwasaki M, Yoshihara A, Ogawa H, et al.: Longitudinal association of dentition status with dietary intake in Japanese adults aged 75 to 80 years. J Oral Rehabil 43:737-744,2016.

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